191)脂肪腫は脂肪の塊?
前回は良性腫瘍の粉瘤(ふんりゅう)についてお話ししたので今回はこれも日常よく見られる脂肪腫を取り上げました。脂肪組織は普通の人体組織ですが脂肪腫は腫瘍です。殆どが良性ですがまれに悪性の脂肪肉腫があります。昔話のこぶとり爺さんのほっぺたの瘤はこの良性の脂肪腫です。良性でも腫瘍ですからだんだん大きくなります。背中にできた最大12cmの脂肪腫を手術した症例もあります。「これは脂肪の塊だから放っておいてもよい」は間違いです。大きくなると手術痕も大きくなり本人の負担も増えます。また脂肪肉腫は体中のどこにでもできますが悪性度が強く生命を脅かします。お腹の中にできると致命的です。抗癌剤もあまり効かず良い治療法もありません。たかが脂肪の塊と放置しないで早めに受診してください。適切に処置いたします。(110715)
192)母乳の神秘
娘が1歳半の孫を連れて帰省した。ちょうど離乳期に当たっていて帰省した日から断乳開始。100%母乳で育った孫は3日3晩泣き続けたが乳首に絆創膏を貼って「ママ痛い痛い」と教えるとちゃんと納得してそれからはご飯のみ。パクパク食べること。娘は「授乳中は食べても食べてもお腹が空いたのに離乳したらあまり食欲もなくなった」とのこと。2人分養っていたのだからさもありなん。母乳は白い血液ともいわれ母親の血液からつくられます。血液は乳房の毛細管に入り乳腺葉に必要な成分が取り込まれさらに乳腺細胞の働きで乳汁に合成されて完成です。母乳が白く見えるのはカゼインという蛋白質の成分によります。だから母親がたばこやアルコール、薬物などや脂肪、糖分過多など偏食をしていると乳児にとっては不幸です。バランス良い食事が大事です。また心の安定が乳汁分泌を促進し、授乳という行為が母子の強い信頼の絆を築きます。妊娠期間も含めて2年余り、一滴も飲まない禁酒期間が解禁になり、断乳開始日に娘がビールを飲んで一言「おいしい〜〜」おもわず「ご苦労様でした」ああ母は強し
193)栄養食品の落とし穴
栄養補助食品(サプリメント)の発祥地はアメリカです。国民皆保険のないアメリカでは自分の健康は自分で守れとばかりに1994年「栄養補助食品健康法」が成立してアメリカは一躍サプリメント天国になりました。そのアメリカから強い規制緩和要求があって日本でも2001年4月から「保健機能食品制度」がスタートしましたがあっという間に世界一のサプリメント天国になってしまいました。日本は世界に誇る国民皆保険制度があるにもかかわらずそれを利用しないでサプリメントに走るなんてまさにサプライズ現象です。健康食品の虚偽誇大広告に惑わされて高価なサプリメントを何種類も買い込んでいる人を見ると「ブルータスお前もか」と叫びたくなります。・酢やヒアル・・酸、グルコ・・・、ウコンにサコンにアガリ・・など高価で効能も眉唾もの。しかもこのなかには深刻な副作用を有するものもあります。(110915)
194)人生いろいろ
私は昭和47年(1972)に医者になったがその頃の癌は悲惨だった。食道癌は殆どが進行癌で手術不能、胃癌は手術しても進行癌で転移、再発が多く、大腸癌も同じで腸閉塞になって始めて診断されるため殆どが手遅れで転移、再発で5年生存率は極めて低かった。それから40年たった今では早期癌を見つけるべく毎日、胃、大腸の内視鏡検査に取り組んでいる。高血圧で通院中の高齢のご婦人で毎年必ず胃内視鏡検査を受けていたが2年前にかすかな粘膜の傷を見つけてどうも気になり、半年毎に胃内視鏡検査をやらせてもらっていたら6回目にしてついに癌細胞を見つけ早期胃癌と診断。2泊3日の入院で内視鏡的粘膜切除で完全治癒。家族からそんなにしょっちゅう検査するのはおかしいと言われながらも私に身をあずけてくれたご婦人は幸運をつかみました。逆に怪しかったのについつい再検査を日延べしていたら1年後には既に肺、肝に転移していたという痛恨の例もあり人生悲喜こもごもです。食道癌、肺癌、喉頭癌、大腸癌、乳癌、膀胱癌でも沢山の人が早期発見で助かっています。検査を嫌わず積極的に文明の利器を利用してかけがえのない命を守って下さい(2011,10,5)
195)ツレがうつになりまして
当代の名優堺雅人と宮崎あおいが共演する映画の題名です。元本は出版が幻冬舎。この出版社がすごい。どこに持っていっても「暗すぎてちょっと・・」とことわられたが幻冬舎の編集者は「うつの本はたくさんあるけど患者と家族の両側から書いたのはなかった。いいかも」と採用してくれて何とこれが大ベストセラーになり映画化にまで至ったのです。この映画のおかげでうつ病がありふれた身近な病気と認知されました。ごく普通に生活していたまじめで几帳面で完璧主義の人が全く別人になってしまうのですから本人はもちろんですが家族の苦労も患者さん以上に大変です。医学的には脳の神経伝達物質(セロトニン)の枯渇状態と説明されます。セロトニンを増やす効果のある薬で治療しますが胃腸症状があったり、効果発現に2週間以上要するため効き目がないと中途でやめてしまう人も多くここを何とか乗り切って下さい。太陽光はセロトニンを増やします。またうつ病になるとなぜか「自殺念慮」「自殺願望」に取り付かれます。そんな時家族はどうしたらいいのか是非この映画をみていただき、ツレの支えの一助にして下さい。 (2011,11,15)
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