(clm(15-19)
15)早期癌でも癌は癌
早期胃癌の手術後5年生存率は97.2 %ときわめて良好です。その手術方法も近年大きく変わってきており、ごく小さな癌はおなかを切らずに内視鏡を使って切除することが出来るようになりました。その他にもお腹に小さな穴を開けて腹腔鏡を挿入し画面を見ながらマジックハンドを操作して行う手術や、開腹してもリンパ節郭清をしない縮小手術が可能になってきました。手術というと今でも身震いしたり尻込みしたりと手術アレルギーを起こす人がいますが、今のところ消化器癌を治すことが出来るのは手術しかありません。ところが最近ちまたにへんな本が出回っています。(96,11,7)
16)患者よ癌と闘うな
某大学の放射線科のドクターが書いた本です。医学関係者なら現在の癌治療に対する問題点を逆説的に論じて警鐘を鳴らしているということがすぐわかりますが、それにしても物事を斜めにとらえているのでかなりの誤解を招いています。一般の読者の中には書かれていることをそのまま鵜呑みにしてしまい以後検診を受けない絶好のいいわけにしたり、癌といわれても手術を拒んで手遅れになったりとその他にも様々な悪影響を投げかけています。少なくとも賢明な読者諸氏においてはこんな悪本に惑わされないようにくれぐれも注意!消化器癌はごく一部の例外を除けば、根治治療は手術が基本です。(96,12,7)
17)ああ、姥捨山
新年早々ちょっと気になる記事が目に留まりました。京都の老人ホームで植物状態の83才の女性が主治医の判断で栄養補給を断たれて死亡してしまったとのことでした。この飽食の時代、福祉国家日本で、それも老人を専門に世話する施設内でよりによって餓死とはあまりにも悲惨です。 関係者は自然死と言っていますがとんでもありません。食事を与えることがどうして無駄な延命治療なのでしょうか。ていのいい口減らし、現代版「姥捨山」そのものです。幾つになったからもういいだろうと思うのは大いなる人種差別です。この問題についてもう一度よく考えてみましょう。(97,1,7)
18)年はとっても
私が手がけた手術患者の最長老は95才の男性です。進行胃癌で胃全摘術が施行されました。ここまで来たらせめてあと5年は生きたいとの思いで自ら難関に立ち向かい大手術を乗り切り、術後も順調に経過して約1ケ月で退院していきました。95才だからもういいだろうと思うのはどうやらの周りの思い違いのようです。家族からもう*歳だから、かわいそうだから手術などしなくてもよい、と言われることがありますが、かわいそうなのは助かる治療を受けられず家族の都合で見捨てられた老人です。幾つになっても生きたいと願うのは人間の本能です。平成元年12月30日の朝日新聞には101才で手術を受け元気に退院した記事が載っていました。(97,2,4)
19)脳死と植物状態
脳死とは脳が死んだ状態です。事故などでは約5分間の無酸素状態が運命の分かれ道になります。呼吸も止まってしまい人工呼吸器がないと呼吸を維持できませんが、心臓には自律性があって、脳が死んでも自力で動くことが出来ます。しかし徐々に体力が弱っていって確実に死を迎えます。臓器移植との関連で注目を浴びています。植物状態とは意識や運動機能はないが脳は生きており自力で呼吸、循環、消化、吸収のできる状態で、経管栄養で生き続けることが出来ます。奇跡的な回復も時々話題になります。医学、社会倫理上、ぼけや尊厳死など人間の尊厳の関わる問題として注目されています。(97,3,2)