clm(10-14)
10) タール
世界で初の実験発癌はウサギの耳にコールタールを塗って出来た皮膚癌です。タバコの中のタールこそ悪の元凶です。強力な発癌作用を持ち特に肺癌の著しい増加の最大の原因となっています。喫煙者の肺癌は非喫煙者の10倍にも及び喉頭癌、食道癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌を始めあらゆる癌の死亡リスクを高めます。まさに喫煙は健康の最大の敵と言えるでしょう。今まで吸っていたからという既得権はもはや通用しなくなりました。一人で嗜むのは仕方ないとしてせめて公式の場では(例会など)今から是非禁煙とすることを提案します。(96,6,3)
11)命短し恋せよ乙女
日本の胃癌死亡率は他の国の追従を許さず圧倒的な差で第1位です。昔から不治の病といえばまず結核、そして胃癌でした。黒沢明監督の名作「生きる」で志村喬演じる主人公が胃癌と知って公園のブランコに揺られ、雨に打たれながら歌う「命短し恋せよ乙女」の名場面は今も忘れることが出来ません。しかし日本の医学はこの胃癌に対して真っ向から戦いを挑みそしてついに胃内視鏡を含め胃癌の診断と治療では世界一のレベルにまで達しました。発癌率は大して変わりませんが早期発見早期治療によって死亡率が大幅に減少したのです。しばらく胃癌のお話が続きます。(96,7,3)
12)病原性大腸菌
胃癌の予定でしたが緊急特集です。関西を中心に猛威を振るっている0-157はヒトの腸内でベロトキシンという毒を産生して出血性大腸炎を起こします。腹痛と鮮血便を伴う下痢が主症状で普通は4〜8日で自然に治癒しますが、抵抗力の弱い人は溶血性尿毒症を併発して死亡することもあります。予防は他の食中毒の予防三原則と同じ。即ち「清潔」「加熱又は冷却」「迅速」これにつきます。石鹸手洗いの励行。加熱調理は75℃一分間以上。冷凍食品は中心部まで加熱されたことを確認すること。そして決してもったいないからと翌日まで残さないことです。(96,8,8)
13)胃内視鏡への招待
今更言うまでもないことですが胃癌の早期発見に絶大な威力を発揮するのが胃内視鏡です。必要不可欠なことは充分承知していますがなかなか飲みにくいのが難点でした。自分でも内視鏡検査を受けてみてあまりの苦しさにこれを患者さんに強いるのもずいぶん酷なことだと反省させられました。何とか楽に検査を受けられる方法はないかと考えた末に超短時間作用の睡眠薬を使ってみたところ結果は大成功でした。数分間、患者さんは何の苦痛もなくすやすやと眠っているので胃の隅々まで観察できるようになり診断率も大幅にアップしました。以下次号(96,9,6)
14)続・胃内視鏡への招待
胃の内視鏡検査は毎年繰り返し受けてこそ始めてその効果を発揮します。やっとの思いで胃内視鏡検査を受けてみてあまりの難儀さに「もうこりごり、死んでも嫌だ」。これでは何のために検査を受けたのかわかりません。スヤスヤ眠っているうちに検査が終わってしまうとは何とすばらしいことでしょう。こんなに楽ならまた来年も受けてみようかなと思ってくれたらしめたものです。毎年検診を受けている人の中にも運悪く胃癌が見つかることがあります。しかし本当に運が悪かったのでしょうか。いいえ実は運がよかったのです。胃癌の場合一年以内に見つかる癌は殆どが早期癌で治療すれば完全に治癒する事が出来るからです。(96,10,7)